「 日本の資源が上海に送られる!? 国際法無視で中国が進める海底ガス田開発に新たな展開 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年4月30日、5月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 590
「中国政府はこれまで一度も、日本国民に申し訳ないことをしたことはない」――中国の李肇星(リチョウセイ)外務相が日本の町村信孝外相に言ったこの言葉ほど、日本人を愚弄するものはない。
反日運動が吹き荒れる中国の各都市から、目を東シナ海に転ずると、そこでは日本の資源を大胆に奪い取る開発が、何十回もの日本側の抗議にもかかわらず続いている。日中における排他的経済水域の、中間線のすぐ脇で進められている石油・天然ガス田群の開発で、また新たな動きが確認されたのだ。4月13日までに、同ガス田の中心施設となると思われる天外天(テンガイテン)の櫓と、その北にある平湖(ヘイコ)がパイプラインでつながったことが確認された。平湖のパイプラインは上海につながっており、上海市民にエネルギーを力強く供給している。
中国は平湖一号井の試掘に1983年4月に成功、以来、二号井、三号井、四号井と試掘してきた。杏林大学の平松茂雄教授によると、最も有望なのは四号井で、深さ2,300~3,700メートルのあいだに、合計13のガス層と4つの油層がある。
この平湖石油・ガス田の北約30キロメートルに宝雲亭(ホウウンテイ)一号井があり、その石油・ガス構造は平湖の構造と同じ断層帯に位置する。宝雲亭の発見により、石油・ガス鉱帯の範囲が80キロメートル以上広がったと平松教授は指摘する。
中国側は春暁(シュンギョウ)石油・ガス田群の開発を正当化するためにさまざまな主張を展開するが、なかには、「世界のどの海底ガス田の構造を見ても、直径5キロメートル以上の広がりを持つものはない」などと主張する、中国政府の代弁者のような学者も目につく。中国がすでに20年来活用してきた平湖の石油・ガス田群を見ても、そうした主張がためにするものであることは明らかだ。
春暁石油・ガス田群は、春暁、天外天、断橋(ダンキョウ)、残雪の四つの石油・ガス田から成るが、日本側の調査では、春暁と断橋の2つが海底で日本側の石油・ガス田とつながっていることが確認された。これら石油・ガス田の資源を集合するのが天外天であり、その天外天が今、平湖とパイプでつながったのだ。これでは日本の資源が確実に吸い取られ、上海に送られてしまう。
しかも、天外天は平湖とつながっただけでなく、今、まさに寧波(ネイハ)ともつながろうとしている。寧波から天外天に向かって敷設されたパイプは天外天・平湖間のものより直径が2・5倍の太さで、天然ガス専用だと見られる。
今、東シナ海では、これらのパイプを運ぶ台船と、それを溶接し海底に設置する大型クレーンを備えた作業船が忙しく作業中だ。1月には周辺海域を、日本を睥睨(へいげい)するかのように、中国の最新鋭の軍艦が航行した。
中川昭一経済産業相が「日本側も鉱区を設定し、民間企業に開発を許可する」と発表した。当然の決定であり、正しい決断である。にもかかわらず、中国側は「中国の権益と国際関係の規則に対する重大な挑戦だ」と言うのだ。
この発言は天に唾するものだ。中国の行為こそ国際法の無視であり、日本への重大な挑戦だ。
日本側はここで、国際社会に恥じない行動をとるべきだ。ゆえなく妥協しては世界に侮られ、未来永劫、禍根(かこん)を残す。国際法をしっかりと守りつつ日本の立場を主張することで初めて、日本の正当性と国家としての尊厳を、国際社会に示すことができる。
日本の主張は、官邸主導で経済産業省、外務省、防衛庁などが一体となって展開しなければ効果はない。たとえば、中国は東シナ海を守るために軍艦を展開させた。日本も同じく、海上自衛隊の船を出すべきだ。日本の国家としての決意を示すのに、そのことが今、最も効果的である。